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国際法務の部屋

「東南アジア・インドにおけるスタートアップ投資の現状と日本企業への提言」について

これまで、経済産業省が海外M&Aに関連してまとめた報告書について、下記のブログでご紹介してきました。

 

「我が国企業による海外M&A研究会」報告書(平成30年3月 経済産業省 )について(その1)

 

「我が国企業による海外M&A研究会」報告書(平成30年3月 経済産業省 )について~その2

 

海外M&Aにおいて法務担当役員に期待される役割 ~「9つの行動」別冊編のご紹介

 

その後、経済産業省は、上記の海外M&Aに係る取組から得られた知見も踏まえつつ、近年成長が著しい東南アジア・インドにおけるスタートアップ投資に焦点を当てた委託調査を行い、日本企業が東南アジア及びインドのスタートアップ投資に取り組む際の課題・提言等の整理を行い、2020年5月に「東南アジア・インドにおけるスタートアップ投資の現状と日本企業への提言」を公表しました。

同報告書では、

  • 東南アジアでは中国企業等から、インドでは米国企業等からの投資が増加しており、こうした国々の企業と比較して、日本企業の存在感は決して高くないとの声もある。今後も、他国企業との競争環境は益々厳しくなるものと予想されており、日本企業にとって、アジアの成長に貢献し、現地スタートアップのパートナーとしての地位を築いていくことが重要である。
  • 東南アジアやインドにおけるスタートアップとの協業は、高い成長性が期待される一方、不確実性も高く、短期的な結果が得られないことも多い、いわば長期的で過酷な挑戦である。こうした取り組みだからこそ、長期的な視野に立って、自社の成長戦略の実現のために「なぜ投資をするのか?」という目的を明確化し、それに合致したスタートアップの探索や投資実行、投資後の関与のあり方等を検討し、必要な体制等を整備していくことが重要である。

という問題意識から、調査対象国をシンガポール、インドネシア、ベトナム、マレーシア、タイ、フィリピンの7か国に絞り、

  • スタートアップ投資の市場規模
  • スタートアップの特徴
  • スタートアップ・エコシステムの状況
  • 今後の見通し

について調査・報告を行っています。

我々の事務所のメインドメインである、ベンチャー法務と国際法務が交錯する報告書であり、全編にわたり大変興味深いのですが、約140頁ものボリュームがある内容となっていますので、本ブログでは、法務面に関連のある「4.2 新興国におけるスタートアップ投資に取り組むに当たっての前提」をご紹介します。

同パートでは、通常のM&Aとの比較に基づいたスタートアップ投資の特性として、下記の4点を挙げています。

  • 不確実性が極めて高く、成功確率が低いハイリスクハイリターン型であり、 積極的なリスクテイクが必要である
  • 事業の安定性よりも、事業の成長性を重要視することが多い
  • 個別案件への限定投資に留まらず、複数企業に対するポートフォリオ投資により、総体としての投資リターンを追求する
  • 資金調達プロセスなどの時間軸が短期間(数週間)で進行する

さらに、先進国投資と比較した新興国投資の特性として、下記の点が挙げられています。

  • 新興国の社会インフラが未整備であることや商習慣・文化の違いなどに 起因して、各国固有の社会的課題が存在し、それら課題解決を目指すスタートアップの起業機会が豊富(先進国の社会的課題とは相違)
  • 現地法制・規制変更が唐突かつ頻繁に行われる等、先進諸国に比較して 高いカントリーリスクが存在し、スタートアップや投資家も対応が求められる
  • 現地有力企業(例:財閥系企業)の存在感が極めて大きいことも

そして、新興国スタートアップへの投資は、上記の2つの特性を意識することが必要であると結論付けるとともに、上記の二つの特性についての具体的配慮事項がまとめられています。

たとえば、スタートアップ投資の特性のうち、時間軸が短時間で進行するという点については、

 

通常の M&A であれば、入念な準備に時間をかけ、DDを通して買収対象となる企業に関するリスクをしっかりと精査し、リスクへの対処方法も検討した上で意思決定を行うことが多い。このようなM&A ディールは、スケジュールありきで進めることは得策ではなく、自らの判断軸に照らし合わせた冷静な意思決定が求められる。一方で、スタートアップは、通常の M&A で対象となる企業と比較すると、様々なリスクを抱えながら事業を推進していることが多く、かつ、通常M&Aと同じようにDDを行うための各種資料は整備されていない。投資家としては、リスクを粒さに洗い出してどのように対処するかを精査しだすと、自社が納得できるだけの DD の成果は得られないばかりか、多くの時間を費やしてしまい、投資そのものが難しくなってしまう。スタートアップ投資におけるDDでは、リスクの網羅的な検出を主眼とせず、特に Early Stage のスタートアップへの投資においては、将来の成長ポテンシャルの大きさやビジネスモデル上の優位性、及びそれらの成長に導きうる経営チームを構築できているか(またはできそうか)に力点が置かれることが一般的である。もちろん、成長に向けた阻害要因・リスクについては慎重な検討を要する場合もあるが、最終的にあらゆるリスクを解消することはできず、一定のリスクを許容する投資姿勢が重要となってくる。例えば、VCが実施するDDは短期間で実施され、通常のM&Aで事業会社が行うDDとは、分析の粒度や視点が異なっていることを理解しておく必要がある。そのようなVCの行動特性もあって、スタートアップの資金調達に参加できる機会を得た場合でも、通常は1ヵ月前後での迅速な意思決定を求められることが多く(Early Stage であるほど短く、Later Stage であるほど検討時間を確保できる傾向にはある)、既に他の投資家の検討が進んでいる場合は数週間で意思決定を求められる場合もある。特に、Early Stage のスタートアップの場合では、資金調達プロセスが速いスピードで進行し、各 Round での投資スケジュールについていくためにも迅速な意思決定が必要となる。また、有望なスタートアップであればあるほど、投資を希望する多数の投資家が集まり、投資競争は激化しがちである。このような中では、起業家(またはリードインベスター)側のペースでRoundが進んでいくため、ますます制約された時間と情報の中での意思決定が求められる傾向が強い

 

とされており、大変参考になるとともに、実務経験からも共感する部分が多いです。

 

また、二つ目の特性である、先進国投資と比較した新興国投資の特性に関する配慮事項として、

 

現地独自の法制・規制も存在し、ビジネスモデルを評価する上で、それらに対する基本的な理解が必要となることも、新興国における投資の特性の一つである。加えて、それらの法制・規制が突然変更となることもあり、更に、それらの変更の一部は、自国企業による産業振興を目的として、自国外の企業にとっては不利益となるようなものである可能性もある。そのような、いわゆるカントリーリスクは、現地でのスタートアップ投資にも一定程度の影響があるため、それらに対する理解・対応力も必要となってくる。

との記載があり、こちらも大変参考になります。こちらは、当該国の弁護士と密接に連携しながらしっかりとした調査・確認を進めていくべきポイントであると考えます。

 

弊所では、ベンチャー法務及び国際法務の分野での豊富な実務経験に加えて、ASEAN諸国に拠点を有するケルビンチアパートナーシップとの業務提携により、新興国スタートアップへの投資をサポートさせていただくことが可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

文責 河野雄介

 

2020年09月08日 09:21|カテゴリー:

ASEAN法務

|タグ:

新興国、スタートアップ、投資

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