国際法務の部屋

中文契約書作成の際の留意点


日中間の貿易量は近年やや減少傾向にあるものの、両国間の取引量は依然として圧倒的なボリュームがあります(財務省貿易統計によると2016年度の日中間の輸出入総額は29兆8915億円です)。

この統計は、日本企業が中国企業間との取引にともない種々の中文契約を締結する機会が非常に多いことを示唆しているといえます。そこで、本稿では、中文契約書作成の際の留意点について検討します。

1. 取引の相手方の情報の調査

まず、中国企業と新規の取引をするにあたっては、相手方企業の企業情報、信用情報等について各種の情報チャンネル(書面、HP、同業者へのヒアリング、信用調査会社、弁護士等)を用いて調査した方が望ましいでしょう。とくに、取引先の営業許可証については、取引先の登録資本金やその払込状況、法定代表者の氏名、経営範囲(中国では、主管機関により認可された経営範囲内でしか企業活動を行えないことから確認必須)などの重要な情報が記載されていることから、取引の前に取得する方が望ましいといえます。

2. 契約書の主な記載事項

日本企業が中国企業と取引をするにあたっては、口頭による契約が許されないわけではありませんが、商慣習や文化の違い等に起因する契約締結後の紛争を予防するという観点からも、契約書を作成して取引の諸条件を書面にて明確にしておいた方が望ましいです。契約書に記載すべき一般的な契約事項としては、当事者に関する情報、定義規定、契約の有効期間、秘密保持条項、契約解除に関する条項、損害賠償に関する条項、契約の修正や変更方法に関する条項、契約書の言語を定める条項、準拠法や紛争解決に関する条項などがあります。

本稿では、実務上よく問題となる、契約書の言語、準拠法及び紛争解決に関する条項について掘り下げて検討します。

3. 契約書の言語

契約書の言語については、届出や認可申請のために中国語で契約書を作成する必要がある契約類型(合弁契約やライセンス契約)を除き、原則として当事者が自由に選択することができます。

通常、① 中国語と日本語で作成し双方を正本とする、② 中国語を正本とし日本語は訳文とする、③ 日本語を正本とし中国語は訳文とする、④ 英語で作成するなどのパターンがありますが、①のケースが比較的多いといえます。①を選択する場合で重要となるのは、中国語と日本語の間で解釈の相違が生じた場合にどちらを優先させるかを明確にしておくことです。

もっとも、日本語の解釈を優先させる旨規定していた場合であっても、中国の裁判所を管轄裁判所とした場合には、日本語と中国語の解釈の相違を中国人の裁判官に説明することは相当困難であることが想定されますので、できるだけ両言語間で齟齬が生じないように、契約書作成段階から留意する必要があります。

4. 準拠法及び紛争解決方法について

日本企業と中国企業が締結する契約は渉外契約となり、契約紛争の処理に適用する準拠法を選択することができます(中国契約法126条1項)。もっとも、中国国内で履行される中外合資経営企業契約、中外合作経営企業契約、外資企業の出資持分譲渡契約等については準拠法を中国法とする必要があり注意が必要です(中国契約法126条2項)。

5. 紛争解決方法の選択について

日本企業と中国企業が締結する渉外契約であれば、日本の裁判所を管轄裁判所とすることも可能です。
ただ、日本の裁判所で得た判決は中国で執行することはできない点に留意する必要があります。

たとえば、日本企業が売主、中国企業が買主の売買契約の裁判管轄を日本とした場合で、中国企業に対する売買代金支払請求訴訟の勝訴判決を日本で得たとしても、中国企業の中国における財産に対して強制執行をすることができません。他方で、中国の裁判所で得た判決も日本では執行できません。

また、契約紛争について中国国内の裁判所を管轄裁判所とする場合は、合意により被告の所在地、契約履行地、契約締結地、原告の所在地、目的物の所在地を管轄地として選択することができます(中国民事訴訟法34条)。中国では、地元企業を有利に取り扱ういわゆる地方保護主義がまだ完全に払拭されたとはいえないことから、契約相手方たる中国企業の所在地が中国国内の地方都市である場合は、契約締結地を北京や上海等の大都市としたうえで、合意管轄も同じ場所にして地方保護主義を回避することも検討すべきでしょう

また、紛争解決方法として、裁判ではなく仲裁を選択することも可能です。

日本と中国はニューヨーク条約に加盟しているため、日本、中国又は第三国で得た仲裁判断をそれぞれの国で執行することができます(上述のとおり裁判所による判決の場合は、お互いの国の判決を相手方国では執行できないことから、この点は仲裁のメリットといえます)。
紛争解決方法として、仲裁を選択する場合は、契約書に仲裁条項を規定しておく必要があります。

(追記:2019年3月)

6. 最後に

当事務所では、クライアントの皆様に対して、中国企業と契約を締結するに際し、「誰に何を依頼していいか分からない」「中国との契約に特有のリスクがあると思うが、その内容や対応が分からない」といった状況に対応するため、今月(2019年3月)6日から、中国語(中文)契約書サービスを開始いたしました。
こちらのご利用もぜひご検討ください。

執筆者
河野 雄介
マネージングパートナー/ニューヨーク州弁護士/弁護士

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