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ベンチャー法務の部屋

大会社への移行は何が問題か

1 はじめに

ベンチャー企業が増資を繰り返して、資本金が5億円以上となることがあります。
資本金が5億円以上となる場合に気をつけなければならないのが、「大会社」に該当することに伴い、会社法上の義務が増える点です。

今回は、この大会社に該当することの問題について、検討します。

2 大会社とは何か。

「大会社」の定義は、会社法第2条第6号に規定されています。

会社法第2条第6号
大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。

簡単に申せば、定時株主総会で承認される貸借対照表において、資本金が5億円以上となるか、負債が200億円以上となると、その承認を決議をする定時株主総会以降、大会社となり、会社法上の種々の義務を負います。

3 大会社へ移行することで生じる問題


(1) 会計監査人
公開会社でであるか否かにかかわらず、大会社は会計監査人を置かなければなりません(会社法第328条)。
会計監査人を設置するためには、まず、監査法人等と監査契約を締結する必要があります。 小さいベンチャー企業であっても、 コストは、年間で最低数百万円から必要となり、決して馬鹿になりません。
なお、会社法上の会計監査人設置の手続きは、株主総会の決議による会計監査人を設置する旨の定款変更と、会計監査人の選任です。

また、会計監査人設置会社になることに伴って、監査役の監査の範囲を会計監査に限定することはできなくなります(同法第389条第1項)。そのため、 監査役の監査の範囲を会計監査に限定している場合は、会社法上 、株主総会の決議で、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する旨の定款変更と、監査役選任の決議が必要となります(同法第336条第4項第3号)。

(2) 内部統制システム
大会社の取締役会は、いわゆる内部統制システムの整備にかかる決定をしなければなりません(会社法第362条第4項第6号、第5項)。

(3) 公告義務の加重
株式会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければなりませんが、大会社は、さらに、損益計算書も公告しなければなりません(会社法第440条第1項)。なお、いわゆる継続開示会社は、この公告義務を負いませんが(同条第4項)、その代わり、 大会社で、且つ継続開示会社は、連結計算書類を作成しなければなりません(同法第444条第3項)。

4 大会社になることを回避する方法

大会社になることを回避するためには、年度末までに資本金を5億円未満にすれば、足ります ( なお、ほとんどの未上場ベンチャー企業の負債額は200億円未満と思われますが、もし負債額が200億円以上であれば、負債額を200億円未満に減らすことも必要です。) 。

資本金を減らすためには、株主総会を開催し、資本金の額の減少を決議(会社法第447条)する必要があります。

(文責:森 理俊)

スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗 その1 ~株式関連編~

 

1 スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗

Twitterをみていると、「スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗」というテーマでの投稿がありました。

今回、私も経験から、スタートアップ企業が陥りがちな法務の失敗を、お伝えします。

シード期は、まずサービスをローンチすることや、売上を上げること、ユーザーを増やすこと、資金を調達すること、人材を集めることに、集中しますので、法務は疎かになりがちです。法務に避けられる予算にも限りがあります。サービスが始まらないのに、法務も何もないというのが、正直なところでしょう。

そこで、シード期の法務は、ひとまず、失敗すると後から挽回することが困難になる可能性高いものを、主として留意することをお勧めします。

「失敗すると後から挽回することが困難になる可能性高いもの」とは、何か。

ずばり、株式関連と、知的財産権です。

2 株式関連で気をつけるべき点

シード期に株式関連で気を付けるべき点は、
① 創業者間のシェアと離脱時の約束
② 初期の第三者割当増資のシェアや株価
③ ストックオプションの割当個数
④ 投資契約や株主間契約、種類株式の不利な条件
⑤ 株主名簿の管理

あたりです。

① 創業者間のシェアは、1/2ずつや1/3ずつにしないことが原則です。まず、最終的に意思決定できないシェア割は避けるべきです。また、意見が割れたときに、2:1となり、少数派が生まれる三頭政治のような体制も経験上失敗事例が多いです。

基本的には、中心となっている人物(起業を志した者など)がマジョリティを有して、できれば、IPOより前までの資金調達を経た後でも、過半数を維持できる程度は、あった方が良いでしょう。

また、株式を保有する主要メンバーが、後から何らかの理由で離脱することは、あり得ます。その場合に、離脱者が株式全部を保有し続けることは、良くありません。離脱後の株主価値の上昇分にフリーランチすることになりますし、実務上、社外の、株主総会招集通知の送り先が1つ増え、さらに、議決権の行使の予想が不安定にもなります。加えて、M&Aの際には、反対株主として株式取得請求権を行使されるかもしれません。
そこで、創業者間でも、株主間契約を締結し、離脱時の譲渡の約束や、強制売却義務を、設定することがオススメです。昨今では、創業者間株主間契約を、定めることが増えてきたと実感します。

② 初期の第三者割当増資は、シェアを出しすぎないこと、株価を適正にすることが大原則です。株価は、低すぎても駄目ですが、高すぎても、次のファイナンスに悪影響を及ぼすことがあります。

③ ストックオプションも同じで、初期に出しすぎると、後から入ってくる有用な人材に、十分な量を用意できないということがあります。

④ 投資契約、株主間契約、種類株式の内容には、要注意です。特に、事前承諾事項や種類株主総会決議事項のほか、金銭を対価とする取得請求権などは、慎重に検討を要します。他にも、表明保証条項の内容や株式買取請求権の条件など、理解できない場合や、相場感がわからない場合、納得できない場合、どのような影響がでるか予想できない場合には、応じるべきではありません。

⑤ 株主名簿は、よくエクセルで、現在の個数のみを記載して管理されている例をみかけます。しかしながら、会社法上、株主名簿は、(i) 株主の氏名又は名称及び住所、(ii) 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)、(iii) 第一号の株主が株式を取得した日、(Iv)  株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号、を記載しなければなりません(会社法121条)。

私の経験上、(i)株主の住所と、(iii)株主が株式を取得した日の記載がないものが、散見されます。株主ごとに、いつ、どのような理由で、誰から何株を取得したのか、を明記した方がよいでしょう。具外的には、備考欄に、「●年●月●日 第三者割当増資●株取得」「●年●月●日 ●氏から株式譲渡により●株取得」などと記載して、現在の合計株数とは別に、その来歴をすべて記載するようにしましょう。

次回は、知的財産権で気をつけるべき点をお伝えします。

文責 森理俊

種類株式の実務的争点(3) 議決権

これまで、種類株式の実務的争点として、(1)で残余財産分配優先を、(2)で配当優先を、取り上げてきました。

今回は、種類株式における議決権について、実務的な争点を検討します。

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)~
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい
2 配当優先 ~種類株式の実務的争点(2) ~
(1) 種類株式の標準項目
(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい
(4) 上記以外の配当優先の定め方
(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針
3 議決権 ~種類株式の実務的争点(3)<今回> ~
(1)  議決権に関連する会社法の規定
(2)  ベンチャー投資で利用される種類株式の議決権についての実務
(3)  投資契約書等の事前承諾事項と、定款の種類株主総会決議事項の違い
(4)  スタートアップ企業への投資における他の事例

【目次・終わり】

 

(1) 議決権に関連する会社法の規定(1) 議決権に関連する会社法の規定

株式会社は、種類株式の内容として、「株主総会において議決権を行使することができる事項」(会社法第108条第1条第3号)や「株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの」(会社法第108条第1条第8号)について、異なる株式を設計することができます。
他に、会社法第199条第4項、会社法第200条第4項、会社法第238条第4項又は会社法第239条第4項によって、必要とされる種類株主総会決議を不要とする旨や、会社法第322条第2項に基づき同条第1項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができます。

(2)  ベンチャー投資で利用される種類株式の議決権についての実務

実務上、VCからスタートアップへの投資では、議決権については、特に種類株主総会決議事項を定めず、特別の定めを置かないか、置くとしても「A種優先株主は、当会社株主総会において、A種優先株式1株につき1個の議決権を有する。」程度の規定を置くスタイルが多数派であるように思います。
種類株主総会決議事項が活用されることが少ないことの理由としては、VC側として、事前にVCの承諾を得て欲しい事項であっても、投資契約書か株主間契約書で、事前承諾事項として定めておけば、スタートアップへの実務的な拘束としては十分という判断があるように思います。

(3) 投資契約書等の事前承諾事項と、定款の種類株主総会決議事項の違い

契約書で、事前承諾事項として定める方法と、種類株式の内容として、種類株主総会決議事項として定める方法の違いは、前者は、いわゆる債権的効力しかないのに対し、後者は、決議が不存在の場合に会社法上無効であるということがあります。
後者(定款の種類株主総会決議事項)は、ある意味、効力が強すぎて、手続が手落ちになってしまうと、無効であり、たとえ種類株主であっても、意思表示のみで、遡及的に有効にすることは難しいからです。手続のミスがあると、登記もとおらないでしょう。
前者(契約書の事前承諾事項)では、債権的な効力しかありませんので、後から手続がミスで手落ちであっても、契約当事者が事後的でも承諾すれば(承諾が得られれば、ですが)、基本的に問題なく、手続が進んで行きます。加えて、事業会社が、意図的に、予め契約書で、事前承諾事項として定めて合意をしていたのに、VCの承諾を得なかった場合のサンクションは、日本の投資実務では、ほとんどのケースで株式買取請求権の発動です。株式買取義務は、かなり重いサンクションですので、抑止力として機能しているのでしょう。

(4) スタートアップ企業への投資における他の事例

議決権に関する定めとして、私が体験してきたものについて、上記の他には、①事業会社(上場企業)からの投資で、連結させたくない、持分法適用会社にしたくない等の理由で、無議決権にするパターン、②エンジェルからの投資で、シェアも大きくないので、個々の総会決議に、毎回反応するのが面倒である(発行会社側に負担をかけたくない)という理由で、(個人でありVCファンドのようにLPへの説明責任もないこともあって)無議決権でよいというパターン、③種類株主のシェアがそれなりに大きく、投資した金額やバリュエーションもそれなりに高いため、種類株主総会決議事項を定めるパターン、④募集株式や募集新株予約権の発行の手続を簡便にするために、普通株主を構成員とする種類株主総会の決議を不要とするパターンが、それなりに見かけます。

議決権は、その後のオペレーションにもかかわるところであり、会社の支配権や企業再編などの意思決定にかかわるところでもありますので、ベンチャー投資を専門に扱う弁護士と相談の上、設計されることが望ましいです。

 

種類株式の実務的争点(2) 配当優先

種類株式の実務的争点(2) 配当優先

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい
2 配当優先 ~種類株式の実務的争点(2) <今回>~
(1) 種類株式の標準項目
(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい
(4) 上記以外の配当優先の定め方
(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針

【目次・終わり】

2 配当優先
(1) 種類株式の標準項目
剰余金の配当の優先は、種類株式に、一般的に設けられている項目です。

剰余金の配当は、会社の一部の清算という効果をもたらすものです。そのため、残余財産分配優先と同様の理由で、配当の有限も設けられます。すなわち、投資家は、高い株価・低いシェアで投資する場合に、1株あたり同じ金額で配当されてしまうと、普通株主により高いリスクを引き受けたにもかかわらず、そのリスクに見合わないリターンしか得られないことになりますので、リスクに見合ったリターン(インカムゲイン)を設計する必要があるというものです。

とはいえ、一般的なベンチャー企業は、高い成長を目指しており、会社に生じた剰余金を再投資に回すことで、複利的に成長することが期待されています。投資家側も、配当優先を規定しているからといって、会社に、必ずしも配当をすることを期待しているわけではありません。

また、そもそも、ベンチャー企業は、出費が先行し、当初、フリーキャッシュフローは、マイナスで推移することが多いですので、そもそも剰余金が生じずに、配当もできないケースも少なくありません。

したがって、剰余金の配当について規定されている例は、極めて多く、ベンチャー投資の現場で設計される種類株式では、ほとんどの場合、配当優先が定められていますが、実際に、この規定に基づいて優先配当を実施している例は、極めて少ないものと思われます。

また、残余財産分配優先を定めていない場合に比べ、配当優先を定めていないことは、投資家側のリスクとしては比較的高くはありません。

そのため、残余財産分配優先の規定があるが、配当優先の規定はないといったケースもないわけではありません。

(2)  標準的な定め方は、特定された金額(&調整条項)+参加型+非累積
スタートアップ企業への投資において、標準的な配当優先条項は、一定の金額を優先した後、さらに配当する場合には、種類株主と普通株主に対して、平等に、1株につき同額を分配するというものです。一定の金額とは、「A種優先分配額の○%に相当する剰余金」と定めるケースもあれば、「○円」と定めるケースもあります。

「○円」と定めると、残余財産分配優先条項と同じような調整条項を配当優先でも設けなければなりませんので、「A種優先分配額(A種優先分配額が調整された場合にはその調整後の金額を意味する。)の○%に相当する剰余金」とすると、調整条項が統一されますので、わかりやすく規定できると思われます。

また、残余財産の分配とは異なり、剰余金の配当は、複数回実施することができますので、「但し、既に同じ事業年度中に設けられた基準日によりA種優先株主又はA種優先登録質権者に対して剰余金の配当を行ったときは 、その額を控除した額とする。」といった定めをすることが多いです。

参加型/非参加型は、残余財産優先分配条項と同じ議論ですので、ここでは割愛します。

非累積/累積は、ある事業年度において行なわれた配当の額が優先配当額に達しない場合、不足額が翌事業年度以降に累積し続け、累積した不足額については、翌事業年度以降、優先配当額の配当の前に、さらに優先的に配当されるとするものです。配当自体が稀であり、配当の累積は、ベンチャー企業に酷なイメージをもたらすことから、非累積がほとんどであると思われます。

(3)  「株式取得時の1株あたりの払込金額」と定めることは避けた方がよい

定款で、優先配当額として「株式取得時の1株あたりの払込金額の○%」を定めることは、避けた方がよいでしょう。理由は、残余財産分配のときの議論と同じです。

(4) 上記以外の配当優先の定め方

種類株式の内容として、議決権を無しにしつつ、配当を優先するという方法は、あり得ます。

このような場合を含め、上記以外の配当優先の定め方として、普通株式に配当する金額の○倍の金額を優先株主に支払うという定め方もあり、上場企業でも、みられるところです。こちらは、投下資本の回収よりも、株式市場で取引されるバリューを意識した定め方と、いえるでしょう。

(5) 配当の性質とスタートアップ企業の配当方針

配当とは、剰余金がある場合に、会社にある現金を株主に戻す行為です。株主全体で把握すると、基本的に以下の取引が成り立つものです。

【配当前】の株式 = 【配当後】の株式 + 配当金

一般的な、配当優先の規定であれば、優先配当をしても、事業年度を超えると、優先配当額がもとに復活しますので、毎年優先配当をすると、普通株主に損ということになってしまいます。そのため、基本的には、スタートアップ企業は、例え剰余金が存在しても、この配当優先の規定が残っている間に、配当をすることは、例外的でしょう。

これを避けるには、優先配当を実施した場合に、配当した金額は、それ以降のA種優先分配額から控除されるものとし、また、残余財産優先分配規定におけるA種優先分配額からも控除されるとするのが、フェアといえるかもしれませんが、あまりそのような規定はみたことがありません。やはり、スタートアップの投資では、投資家も発行会社も、配当は望んでいないため、配当があまり実現されない方向で規定されていても、それほど問題視されないものと思われます。

(文責:森 理俊)

種類株式の実務的争点(1)  残余財産分配優先

日本のベンチャー投資において、この15~20年くらいの歴史のなかで、スタートアップ企業が、新株発行をして、増資をすることで、資金調達をすることは、珍しいことではなくなってきました。勿論、これは、立場によって、感じ方も異なることと思います。

そして、この増資の方法として、種類株式が利用されることも、稀ではなくなってきました。

しかしながら、スタートアップ企業の経営者にとっては、初期の資金調達で、投資家から種類株式の要領(タームシートや定款変更案)を突きつけられると、未だに非常に面食らうものであることも、確かでしょう。種類株式の内容は、専門用語が多く、複雑であり、真意を理解することが容易ではないからです。

しかも、種類株式に関する専門書を読んでも、種類株式の種類として、配当優先、残余財産分配優先、取得請求権付株式、取得条項付株式、拒否権付株式、役員選任権付株式などと、列挙されていて、自社(発行会社)にとって、何が有利な条項で何が不利な条項で、相場と比較して、どの程度ずれているのかも、よくわからないことが多いと思われます。そこで、実務上の観点から、種類株式について、実質上の争点や留意点を検討してみたいと思います。

 

【目次】
1 残余財産分配優先 ~種類株式の実務的争点(1)<今回>~
(1) 種類株式の必須項目
(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい

(注)次回以降は、作成する度に目次に加えます。
【目次・終わり】

 

1 残余財産分配優先
(1) 種類株式の必須項目
残余財産分配の優先は、種類株式に、必ずと言ってよいほど、設けられる項目です。

その理由は、以下のとおりです。

・種類株式の発行によって、投資家に対して第三者割当増資を行うときは、株価(払込金額)が普通株式より高いことが、ほとんどである。また、その際に、その投資家が取得することとなるシェア(議決権割合)は、結果として、1/3にも満たない可能性が高い。

・もし投資家が普通株式を引き受けていると、その投資家は、会社の解散に対して拒否権を持てないことになり(株式会社の解散は、株主総会の特別決議事項で、出席株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の多数が必要。会社法第471条第3号、第309条第2項第11号)、投資直後に会社が解散すると、1株あたり同じ金額の残余財産しか分配されないことになる。そのため、投資家は、高い株価・低いシェアで投資する以上、直ちに解散した場合であっても、少なくとも、投資した金額については、残余財産から優先的に分配されるよう、株式を設計し、直後の解散による投資損といった事態を確実に避ける必要がある。

わかりやすい例として、普通株式を株主Aに90株(払込金額1万円)を発行している株式会社があるとします。このとき、会社にある資産は投資実行時から増減がないとすれば90万円です。その会社が、投資家Bに普通株式10株を割当て、1株あたり払込金額100万円で発行すると、発行直後に、会社にある資産は1090万円です。その後、会社の解散決議を行うと(株主A:90%、株主B:10%であり、株主Bが反対しても可決される。)、清算費用を無視すれば、株主Aに、981万円(1090万円×90%)、株主Bに、109万円(1090万円✕10%)が分配されます。株主Bにとっては、1000万円の投資が、109万円になるわけですから、大損です。

投資家は、高い株価・低いシェアで投資する場合に、このような解散による投資損といった事態を避けるために、普通株式ではなく、残余財産分配を優先する内容の種類株式での投資を望みます。

 

(2) 標準は、払込価額(&調整条項)+参加型
スタートアップ企業への投資において、標準的な残余財産分配優先は、払込価額相当額を優先した後、さらに分配する場合には、種類株主と普通株主に対して、平等に、1株につき同額を分配するというものです(実際の定款では、「A種優先株式1株につき、普通株主又は普通登録質権者に対して普通株式1株につき分配する残余財産にA種取得比率を乗じた額と同額の残余財産」といった形で、種類株式については種類株主が取得請求権を行使した場合に取得できる普通株式数に計算した上で、1株あたり平等に分配されるように設計されます。)。

また、「払込価額相当額」としているのは、株式分割や株式併合、株主割当増資、株式無償割当ての場合に、払込価額を調整する必要がありますので、そのための調整条項がおかれます。例えば、種類株式1株を10株にする株式分割をする場合には、払込価額相当額を、当初の10分の1にするといった調整です。

残余財産分配に関する定め方のバリエーションとしては、非参加型、すなわち、種類株主が払込価額相当額につき優先的に分配を受けた後、残余財産の分配を受けない方法、があり得ますが、一般的ではありません。

また、ほかのバリエーションとして、払込価額の2倍や3倍を優先残余財産分配額とする設計もあります。こちらも、少なくとも今の日本では珍しい設計ではないかと思います。

 

(3) 定款変更案では「株式取得時の1株あたりの払込金額」と記載することは避けた方がよい

時折、「A種優先株主又はA種優先登録株式質権者に対し、普通株主又は普通登録株式質権者に先立ち、A種優先株式1株につき、株式取得時の1株あたりの払込金額を分配する。」といった規定が見られます。

この規定自体は、直ちに問題がある規定ではありません。登記手続においても問題とはされないと思います。

しかしながら、(i)定款の種類株式の定款規定を読むだけでは、優先残余財産分配額が判断できないこと(別途、実際の「払込金額」を把握する必要がある)、に加えて、(ii)異なる払込金額でA種優先株式を発行している場合には、先に株価Xで発行されたA種優先株式と後に株価Yで発行されたA種種類株式は、会社法上、異なる種類の株式と判断される可能性があります。特に、(ii)の場合は、別に定められた「取得と引換えに交付すべき普通株式数」に関する規定でも、「取得と引換えに交付すべき普通株式数」が異なる場合が生じることになり、会社法上、異なる種類の株式と判断される可能性が極めて高いです。

そのため、「A種優先株主又はA種優先登録質権者に対し、普通株主又は普通登録質権者に先立ち、A種優先株式1株につき金●円を支払う。」というように、具体的な金額で規定した方がよいでしょう。

(文責:森 理俊)

『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』(経済産業省)

今月(2019年5月)、経済産業省にて『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』が策定されました。

 

1 『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』の策定

昨今、大学発ベンチャーに関連して、大学が保有している知的財産をベンチャー企業に移転する場合等の対価として、新株予約権を取得する例がかなり増えてきたように思います。

先日(2019年5月)、経済産業省は、『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』を策定しました。

私は、これまで実際に国立大学法人の知財移転や新株予約権取得に関与して、助言などを行っており、これまでの関連する動きと併せて概観したいと思います。

 

2 これまでの文部科学省通知などの状況

これまで、文部科学省から、以下の通知において、例えば下記の指摘がありました。

 国立大学法人等は、法第22条第1項各号又は法第29条第1項各号に規定される業務と離れて、収益を目的とした別の業務を行うことはできないが、同項各号の範囲内の業務を行う中で、受益者に対し費用の負担を求め、結果として、収益を伴うことまでは否定されていない。
その対価として現金に代えて株式等を受け入れざるを得ないような場合には、株式等を取得することは法的に可能と解されること。
ただし、国立大学法人等においてその取得を慎重に判断した上で実施するものであることに留意すること。また、この取扱いは、当該対価を現金により支払うことが困難な大学発ベンチャー企業等を対象として想定しているものであり、株式公開企業等の現金による支払が可能な企業について、現金に代えて株式等を取得することは法の趣旨に照らし妥当な取扱いとは解されないこと。

(想定される対価の例)
・国立大学法人等の教育研究活動に支障のない範囲内において、一時的に、国立大学法人等の施設を使用させる対価
・国立大学法人等の教育研究活動の成果を活用し、技術相談業務、技術顧問業務、法律相談業務等、技術的な支援を行い、得る対価など

(文部科学省高等教育局長等 29文科高第410号 平成29年8月1日「国立大学法人及び大学共同利用機関法人が株式及び新株予約権を取得する場合の取扱いについて(通知)」)
注釈:「法」とは国立大学法人法を意味する。太字は筆者による。

また、内閣府及び文部科学省から、以下の通知において、下記の指摘がありました。

法第 34 条の 4 及び第 34 条の 5 は、研究開発法人及び国立大学法人等が支援に伴い株式等を取得することができる場合を、法人発ベンチャーの資力その他の事情を勘案し、特に必要な場合としている。すなわち、支援を行う研究開発法人又は国立大学法人等の研究成果を活用した事業の有望性が高い法人発ベンチャーであって、当該研究開発法人及び国立大学法人等による支援に対し、現金による支払を免除又は軽減することが当該ベンチャーの経営の加速のために特に必要と考えられる場合が対象となる。

法人発ベンチャーから株式等を提供したい旨の意向が示された場合、研究開発法人及び国立大学法人等は、株式等の 価値を公正かつ客観的に評価できるよう、必要に応じて、株式等の取扱いに係る経験等を有する外部専門家の意見を活用しつつ、法人発ベンチャーとの合意の上で取得する株数等を決定する必要がある。

(内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当) 文部科学省 科学技術・学術政策局 平成31年1月17日「研究開発法人及び国立大学法人等による成果活用事業者に対する支援に伴う 株式又は新株予約権の取得及び保有に係るガイドライン」)
注釈:「法」とは科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律を意味する。太字は筆者による。

以上を踏まえると、従前から、取得時や保有時に以下の留意事項が考えられていました。

【大学側の取得時の留意点】
・ 新株予約権の取得については、ライセンスの相当性、新株予約権取得の相当性(事業の継続性や回収可能性など)に留意する
・ 新株予約権自体の相当性(数や内容の合理性など)に留意する
・ 実務上、ライセンス等の対価及び新株予約権1個あたりの価値を算出し、ライセンス等の対価を新株予約権1個あたりの価値で割って、個数を算出することが理想である。ただし、現実には、ある程度の仮定を前提とした上での計算をもとに、外部専門家の意見を活用しつつ、法人発ベンチャーとの合意の上で取得する株数等を決定する。

【大学側の保有後の留意点】
・ 特段の事情がない限り、換金可能な状態になり次第可能な限り速やかに売却することが求められる。
・ 自益権(利益配当請求権や残余財産分配請求権)の行使はよいが、議決権の行使など経営参加権等のいわゆる共益権の行使は、原則として認められない。例外あり。

 

3 経済産業省作成の『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』について

経済産業省は、『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』において、基本的な考え方として、以下のとおり、述べています。

「現金による支払を免除又は軽減することが当該ベンチャーの経営の加速のために特に必要と考えられる場合」である基準については、ベンチャー企業の成り立ちや将来的な事業計画、また大学との関わりは多様であり、株式・新株予約権の取得の妥当性を画一的な基準で判断することは困難です。そのため、株式・新株予約権の取得可否の判断は、対象とする企業がその時点で保有しているキャッシュの多寡だけではなく、ライセンスに伴って現金による支払を免除又は軽減することがその企業の事業計画を勘案すると必要かどうか、また、企業側が希望しているかどうかという視点で検討することが適切であると言えます(p.19)。

また、考慮するための要素として、「新株予約権取得の判断を行うための事業計画を確認し、現金を回収できることが一定程度見込まれること」「新株予約権を取得するタイミングとして、シード期が一般的であるが、例外もあり各ケースに合わせた対応をすること」「事業内容と大学ミッ ションとの関連性を整理するとともに、事業内容の公正性などを確認すること」等が挙げられています(p.20)。

 

4 今後の動き

今回の『大学による大学発ベンチャーの株式・新株予約権取得等に関する手引き』の策定は、これまでの議論状況を整理し、一覧性を高めたものといえます。実務上の留意点も、これまでと比して、変化したというものではなく、わかりやすく整理されたといえます。

これまでも、日本の大学が知的財産権のライセンスに伴って大学発ベンチャーから新株予約権を取得する場合はありましたが、これが加速するものと思われます。

当事務所では、これまで、国立大学法人を中心に、大学発ベンチャーから新株予約権を取得するに際して、「ライセンス契約書」及び「新株予約権割当契約書」の作成をサポートしたり、新株予約権を取得することの相当性の要件の確認などの業務を提供したりしてきました。

これからも大学発ベンチャーが、このような仕組みを使って、ますます加速することを強く期待しています。

文責:森 理俊

ベンチャー企業のインセンティブ制度に関するニュースについて

2018年の年末から、今年にかけて、ベンチャー企業のインセンティブ制度について、いくつかのニュースがありました。

(1) メルカリの新インセンティブ制度

メルカリがストックオプションに代えてRSU(Restricted Stock Unit)を導入したというニュースです。

日本初の挑戦を。メルカリが新インセンティブ制度に込めた想いとその舞台裏

「メルカリ、全社員に株の報酬制度 優秀な人材を確保」
2019年1月16日日本経済新聞

(2)  スタートアップ、外部人材の株式報酬に税優遇

「スタートアップ、外部人材の株式報酬に税優遇」
2019年1月22日日本経済新聞

スタートアップ企業の事業開発において、政府が、大学の研究者など専門知識を持って外部から協力してくれる人材へのストックオプション(株式購入権)による報酬について課税繰り延べを認める、という内容です。

記事によると、「新たに対象を社外の関係者にも広げる。大学や研究機関の研究者のほか、フリーのプログラマーやエンジニア、弁護士や医師などを想定する。」「ストックオプション税制の拡充では、中小企業等経営強化法の改正案など関連法案を28日召集の通常国会に提出する。」とのことです。

1 (1)メルカリの新インセンティブ制度について

RSU(Restricted Stock Unit)は、譲渡制限株式ユニットと訳されており、ボーナスの一部(メルカリの場合は半分)を、現金の代わりに株式購入の対価を充てる

メルカリは、おそらく従前の現金賞与制度を減額・変更するという選択肢はとっていないと思われますので、従前に(無償)ストックオプションを付与していた部分を、株式譲渡対価分を会社が負担してでもRSUを導入したということだと思われます。

メルカリの企業理念やインセンティブについての考え方、日米における税制、RS・RSUの両制度のメリット・デメリット等を十分に検討して、導入に臨まれたと思います。

概要は、取締役会(※)で、役職員の一部を対象に、第三者割当増資による募集株式の発行を行い、一定期間の在籍などを条件として、対象者毎に予め定める数を付与するというものです。また、対象者には、予め会社から支給された金銭債権を現物出資してもらい、会社株式を交付するという内容です。1株当たりの払込金額は、「発行又は処分に係る取締役会決議の日の前営業日における東京証券取引所における当社株式の終値(同日に取引が成立していない場合は、それに先立つ直近取引日の終値)を基礎として、対象者に特に有利とならない範囲において当社の取締役会において決定」するということのようです。
(※ 上場企業ですので、第三者割当増資は取締役会で決議します。)

この方法は、非上場企業では、株主が増える等の面がデメリットとして大きな影響をもつ上、人数が多いと有価証券の募集にも該当してしまう可能性があるため、他に導入されるとしても、世界に展開している上場企業ではないかと予想します。

このような多種多様なインセンティブ設計が議論されるようになったのは、ここ1~2年のように思われ、様々な手続的な面倒さを含めて、実務が洗練されていくことを望みます。

2 (2) スタートアップ、外部人材の株式報酬に税優遇

これまで、非上場企業が、いわゆる外部人材(取締役や従業員ではなく、税制適格が受けられない人)に、インセンティブ目的でストックオプションを付与しようとすると、有償の公正時価発行の新株予約権か、いわゆる信託型にするか、(金額が少ないと仮定する等して税制適格を諦めて)無償ストックオプションにするか、(新株予約権を諦めて)現物の株式とするといった選択を迫られていました。

いずれも導入コストの面、又は税制の面等でのデメリットをかかえており一長一短でした。

そこに、平成31年度税制改正では、これまでの取締役、執行役及び使用人に加えて、「特定事業者」も税制適格の対象者に加えられる予定です。

特定事業者とは、「中小企業等経営強化法に規定する認定新規中小企業者等(仮称)が新事業分野開拓計画(仮称)に従って活用する取締役及び使用人等以外の者(新事業分野開拓計画(仮称)の実施期間の開始の日から新株予約権の行使までの間、居住者である等一定の要件を満たす者に限る)」ということのようであり、「社外の人材を活用した事業計画を策定して、所管省庁から認定を受けること」が条件のようですので、使い勝手のよい制度になるかどうかは、まだよくわかりません。

ひとまず、エンジニアや弁護士、大学教員など、外部の人材に、ストックオプションを付与するインセンティブがあるケースは、かなり多く、そのような需要に応えられるものであれば、日本のスタートアップにおける課題が一つ解決することになるかもしれません。

アクシス国際法律事務所では、引き続きこの税制改正についての情報を把握するように努める所存であり、続報があれば、紹介します。

(文責:森理俊)

2019年01月24日 11:41|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その3)

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理です。
「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その1)」「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その2)」の続きです。

これまで紹介した用語は、以下のとおりです。
1.ベンチャー投資
2.Exit(イグジット・エグジット)
3.IPO(アイ・ピー・オー)
4.VC(ブイシー・ヴィーシー)
5.エンジェル
6.CVC(シーブイシー・シーヴィーシー)
7.ステージ
8.投資契約
9.株主間契約
10.財産分配契約

11.企業価値評価額(バリュエーション)
企業価値評価又は企業価値評価額(バリュエーション)は、ベンチャー・ファイナンスに限った用語ではなく、企業のファイナンス全般で用いられます。一般的に適用可能で、且つ具体的な企業価値評価の手法については、マッキンゼーの有名な本『企業価値評価―――バリュエーションの理論と実践』や日本公認会計士協会の『企業価値評価ガイドライン』等が参考になるかと思います。

シード・ステージのベンチャー企業は、まだプロトタイプができたかどうか、といった段階にあるため、精緻な企業価値評価は困難であり、不確定要素が多すぎるため、意味を為しません。そのため、実際には、投資総額300万円〜1500万円ぐらいで10%程度の株式を発行することを念頭に、企業価値を逆算することが多いように思われます。投資総額300万円で株式の10%を割り当てる場合の時価総額は3000万円であり、投資総額1500万円で株式の10%を割り当てる場合の時価総額は1億5000万円です。

事業価値+非事業用資産=有利子負債+株式時価総額を前提とすると、ほとんどの場合、シード・ステージのベンチャー企業には、非事業用資産も有利子負債もありませんので、事業価値=時価総額となります。

したがって、発行会社は、事業価値が3000万円~1億5000万円あるということを投資家にアピールする必要があります。

ミドル・ステージやレイター・ステージであれば、既に売上も利益もその将来の上昇の見込みも明確になってきていますので、それらの数字を前提に、類似する事業を行っている上場企業の時価総額を参考にしたり、DCF法を用いたりすることになります。

12.時価総額(キャップ)
既に「11. 企業価値評価額」でも、時価総額に触れました。

株価✕株数(発行済株式総数)=時価総額

以上の算式で算出します。ここでの株価は、非上場のベンチャー企業の場合、株式市場での株価がありませんので、直近のファイナンスにおける株価を指します。
なお、細かい点ですが、自己株式がある場合は、発行済株式総数から自己株式数を差し引く必要があります。

カタカナで「キャップ」と言われることがありますが、これは、時価総額を意味するMarket capitalizationから来ています。

13.プレ・バリュー/ポスト・バリュー
プレ・バリューは、Pre-money valuation ポスト・バリューは、 Post-money valuation のことです。「プレ」や「ポスト」とだけ呼ばれることも多いです。

プレ・バリューとは、資金調達直前の時価総額を意味し、ポスト・バリューとは、資金調達直後の時価総額を意味します。

あるファイナンス・ラウンドのプレ・バリューとポスト・バリューは、以下の算式が成り立ちます。

Pre-money valuation + 調達額 = Post-money valuation

「うちは、今回のファイナンス、ポストで6億だったよ。」といった使われ方をします。「当社は、今回の資金調達については、調達を終えた直後の時点で、時価総額6億円の評価をしてもらったよ。」という意味です。

今回は、ここまでです。
(文責:森理俊)

会社が株式公開を目指さない理由

最近、「企業価値5600億円 米スラックが株式公開しない理由」という記事がありました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32237140W8A620C1TJC000/

Slackは、昨今のベンチャー企業では、使っていない方が珍しいくらいに、浸透しているビジネス用のチャットツールです。

私も、所内外を問わず、いろいろな場面で活用させていただいています。

そのSlackのCEOが、当面、株式を公開しないとのことです。

通常、ベンチャー企業が、VCや投資家から、新株発行により資金を調達する際には、当該株式について、将来、上場によって公開されることを目指すと宣言します。IPOによって、株式が公開されない限り、VCや投資家にとっては、投下した資本を回収する手段がないからです。

しかしながら、いまや世界中のビジネスシーンで利用されるようになった、Slackは、ユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の有力未上場企業)であり、上場しなくても、その株式を保有したいという投資家・資産家は、列をなしているのでしょうから、労力のかかる(=めんどくさい)IPOは、しなくても問題ないでしょう、ということかもしれません。

私が過去に書いたブログで、会社の株式の未来は、大きく分けて4つの未来しかないと書いたことがあります。

「会社の未来は4つしかない」

会社の未来は4つしかない

(未来1) 株式公開(IPO)
(未来2) M&A(買収される)
(未来3) 保有され続けて、相続の対象となる。
(未来4) 会社の清算により、残余財産分配請求権に転化する。

Slackのように、有力な投資家が保有し続けて、未上場のまま、維持されていくケースもあるかもしれません。この場合、個人株主については、(未来3)ですね。

Slackのように、未上場のまま有力な投資家が保有し続ける場合、投資家は、未上場のまま、会社に配当を求めるのかもしれません。

栄枯盛衰は世の常ですので、上場できるうちに、上場した方がよいという意見もあるとは思いますが、如何でしょうか。
SlackとSlackの投資家の未来は、どうなるでしょうか。

2018年07月03日 12:37|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません

ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その2)

今回も、ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理です。
前回の「ベンチャー・ファイナンスに関連する用語の整理(その1)」の続きです。

 

6.CVC(シーブイシー・シーヴィーシー)
CVCとは、コーポレート・ベンチャー・キャピタルのことです。ベンチャー・キャピタルは、前回「4.VC」で触れています。
CVCは、GPが大企業の子会社で、LPがその大企業であることが多いです。大企業がこのようなベンチャー・キャピタル事業をする主な目的は、一般的に、資産運用だけではなく、最先端の技術を探索して、情報を得つつ、出資元となる大企業に有用な技術を獲得することにあると言われているように思います。ここ数年はCVCが乱立する傾向にあり、歴史のあるVCと比較すると、例外もありますが、歴史や経験の浅いCVCも少なくありません。自社の株主としてCVCを選ぶ場合には、どのような連携や協業ができそうか等もよく検討した方がよいかもしれません。
 

7.ステージ
ベンチャー・ファイナンスの世界では、ステージとは、投資を実行する際に、発行会社がいる段階を意味します。シード・ステージ、アーリー・ステージ、ミドル・ステージ、レイト・ステージなどという使われ方をします。
シードとは「種(seed)」のことであり、企画と構想の段階で、ざっくりと500~1000万円程度の資金調達額を目指すようなステージを意味することが多いです。勿論、これに当てはまらない調達額のファイナンスも数多くあります。そもそも、ファイナンスを「シード」や「ミドル」と言っていたところで、何か特別な効果があるわけではありません。あくまで目安です。

 

8.投資契約
ベンチャー投資における投資契約は、株式総数引受契約(会社法第205条)とは別に、投資家と発行会社の間で、締結する投資に関する契約です。ほとんどの場合、投資家側の要望により締結されます。投資家は、投資契約を締結することにより、(i)会社法に定められた株主としての権利以上の権利を得る、(ii)表明保証条項により投資契約締結時点の状況を把握しやすくしつつ、虚偽の情報や誤解に基づく投資を避ける、(iii)投下資本の回収についての想定する手段と時期を発行会社と共有する等のメリットを得ることができるためです。これらのメリットは、VCの業務執行者(=GP)が、VCにとっての投資家(=LP)への説明責任を果たすためにも、必要であるといえます。発行会社は、VCから投資契約書の提案を受けた場合、VC側の事情も理解しつつ、自社にとって、過大な負担や過度に不利益な条項を排除するための交渉をすることになります。目的が理解できない条項がある場合や、相場がわからない、すなわちどの程度の条件であれば、一般的といえるか、わからない場合は、ベンチャー・ファイナンスに詳しい弁護士に質問されるのがよいでしょう。
 
具体的には、投資に係る発行概要(株式等の種類、種類株式の内容、数、価格、払込期日等)、資金使途、表明保証等の投資の前提条件、投資実行の条件、契約違反が生じた際の取り決め等が骨格となります。他に、誓約事項、事前承認事項、事前通知事項、事後報告事項、取締役の指名権、オブザーバーの指名権、希薄化防止条項、秘密保持、一般条項等が定められることも少なくありません。

 

9.株主間契約
株主間契約は、発行会社、創業株主及び主要な投資家の間で定められる、株式の異動や株式に係る権利行使に関連して、株主間の権利義務関係を取り決めたものです。投資契約は、その株式引受自体に関する事項を骨子とする契約であり、株式引受という取引そのものを対象としていることと比較すると、株主間契約は、投資家が株主となった後、Exitするまでの期間を対象とした長期間の契約関係を対象としているといえます。
 
具体的な条項は、投資語の会社経営に関する事項、情報開示に関する事項、株式に異動に関する事項、投資家のExitに関する事項等で構成されています。

 

10.財産分配契約
投資家、エンジェルや従業員株主と創業株主が当事者となって、株主が会社と利害関係を有しなくなった場合や、発行会社にM&Aが生じた場合、個人株主が死亡等のアクシデントに見舞われた場合を想定して、株式の異動等について明確にするの契約書です。実際の契約書名は、「合意書」「買収に係る株主分配等に関する合意書」「株主間における合意書」「株主間契約書」となっていることが多いです。
 
具体的には、みなし清算条項(Deemed Liquidation)、共同売却権/売却請求権/同時売却請求権(Drag Along Right)や、株式買取請求権が規定されています。みなし清算条項とは、発行会社にM&Aが生じた場合に、発行会社を清算したものとみなして投資家に対して分配を行うことを内容とする定めをいいます。共同売却権/売却請求権/同時売却請求権は、多数の投資家の賛成等の任意に設定された一定の要件を充たした場合、発行会社、創業株主に限らず、他の株主に対しても買収に応じるべきことを請求することができる権利を意味します。株式買取請求権とは、死亡や成年後見開始決定等、退職等のイベントが発生した場合に、経営支配株主が当該イベントが生じた者(又はその包括承継人)から会社株式を買い取れるように、株式の買取りを請求することができる権利を意味します。
 
続きます。
 
(文責:森 理俊)

2018年06月01日 21:35|カテゴリー:ベンチャー・ファイナンス||コメントはまだありません
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