ベンチャー法務の部屋

新株予約権と税制適格

2010.12.13

ベンチャー企業の経営には、ベンチャー企業特有の苦労も少なくはありません。ベンチャー企業の数ある苦労の1つは、人材の確保でしょう。

「優秀な人を雇いたいがお金が足りない。」という場合、経営者は、どうすべきでしょうか。ストックオプション(新株予約権)がその1つの方法であることは以前のエントリー「ベンチャー企業のモチベーション2.0 ストック・オプションの話(1)」「ベンチャー企業のモチベーション2.0 ストック・オプションの話(2)」で、書かせていただいたとおりです。

あるIT業界で有名な方が、ベンチャー企業の経営者に向けて、「自分より優秀な人を自分より高給で雇って下さい。」ということをおっしゃっていました。これこそが日本のベンチャー企業が抱えている問題を解決する1つの方策である、と。そして、同時に、「社長には、エクイティーがあるのだから。」ということもおっしゃっておられました。社長はエクイティーで稼げるのだから、役員報酬は多くをもらう必要はないでしょう、ということです。

このエクイティーとは、具体的には、何でしょうか。

1つは、会社が発行した株式であり、もう1つは、会社が発行した新株予約権です。

できる限り、優秀な人材への給料を高くしてあげることは大事です。ただ、現金の支出を伴うとなると、そこはやはりベンチャー企業であり限界があることが少なくありません。そこで、役員や従業に対するモチベーションとして用いられるのが、エクイティーであるストックオプション(新株予約権)です。そこで、今回は、新株予約権の実務において、よく問題となる税制適格を取り上げます。

従業員に株式を与えるためには、その従業員からお金を支出してもらわなければなりません。ベンチャー企業では、(従業員)持株会という形で会社の株式を保有していることが多いと思います。一方、新株予約権の付与は、無償発行が可能ですので、従業員の負担がありません。

新株予約権の付与は、上場したり上場企業等に会社が買収されたりするときに、行使価額と時価の差額分の利益が現金化可能になります(買収時の現金化の可能性については、要項や契約内容によります。また、社長等の経営陣については、インサイダー規制等の関係で、行使及び株式売却のタイミングが難しいことがあります。)。

この新株予約権を発行する際に、重要なのが、税制適格(租税特別措置法第29条の2)です。税制適格の詳細な内容及び効果については、ここで述べることは割愛しますが、効果面では、税制適格がないと、新株予約権を行使して株式を取得した時点で、課税対象となり、まだ現金化できていないのに、税金を払わないといけないという事態になるリスクがあると認識しておいていただければよいかと思います。

税制適格の主要な要件には、以下のものがあります。

・新株予約権の1株当たりの権利行使価格は、付与契約時における株式時価以上であること。
・当該新株予約の権利行使は、付与決議の日後2年を経過した日から当該付与決議の日後10年を経過する日までの間に行わなければならないこと。
・付与対象者は、発行会社・その子会社の取締役・執行役・使用人・権利承継相続人であること。
・大口株主及び当該大口株主の特別関係者(親族や配偶者など)でないこと。
・当該新株予約権の行使に係る権利行使価額の年間の合計額が、1,200万円を超えないこと。

社長については、大口株主(上場株式等:1/10超、それ以外:1/3超)に該当してしまうことが少なくありませんので、注意が必要です。別途、有償ストックオプションの付与等を検討することになります。

また、当初、税制非適格ストックオプション契約を締結しており、それを後から税制適格を満たす内容の契約に変更したとしても、税制適格が受けられず、すなわち、租税特別措置法第29条の2の規定を適用して、株式の取得による経済的利益を非課税とすることはできませんので、注意が必要です。

ストックオプション契約の内容を税制非適格から税制適格に変更した場合

http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/shotoku/02/28.htm


従って、新株予約権を発行する場合は、要項等が会社法を満たすかどうかを専門家にチェックしてもらうほか、付与契約の内容が税制適格に合致しているかを検討する必要があります(本来は受け取る側(役員や従業員)がチェックすべき問題ですが、会社の主要な役員や従業員に税務問題が発生することは発行会社にとってもリスクですので、発行会社側でもチェックしておいた方がよいでしょう。)。後から変更することはできず、再度、新株予約権を出すとなると、新しい時価(多くの場合、上昇している)を行使価格として、発行する必要がありますので、メリットが減ってしまうことにもなりかねません。

くれぐれも新株予約権については、発行する側も取得する側も慎重にご検討いただければ幸いです。

執筆者
S&W国際法律事務所

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