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仮想通貨の不正流出に伴い仮想通貨の送信が停止されたことにつき登録ユーザーから仮想通貨交換業者に対する債務不履行による損害賠償請求が成り立たないとされた事例(東京地方裁判所判決令和3年6月25日・金融商事判例1625号23頁)

2021.12.10
S&W国際法律事務所

【事案の概要】

Yは、仮想通貨交換業等を目的とする株式会社であり、インターネット上でビットコイン、ネム、イーサリアム、リップル及びライトコイン等の仮想通貨を対象とした販売所及び取引所を運営している。

Xらは、Yとの間で、仮想通貨の売買の場を提供するサービス、これに関して利用者として登録がされた者(以下「登録ユーザー」という。)の金銭又は仮想通貨の管理をするサービス、その他関連サービスに関する利用契約(以下「本件契約」という。)を締結し、Yにおいて、それぞれ取引口座(以下「ユーザー口座」という。)を開設した者である。

Yは、ユーザー口座において、登録ユーザーが保有する仮想通貨や取引に利用するための金銭を管理している。Yは、登録ユーザーの要求により、Y所定の方法に従い、ユーザー口座からの金銭の払戻し又は仮想通貨の送信に応じる(以下、同払戻しに関するサービスを「出金サービス」といい、同送信に関するサービスを「送信サービス」という。)。

Yは、平成30年1月26日午前零時2分頃から、外部の第三者からの不正アクセスによって、登録ユーザーから預かったネムのうち5億2630万0010ネムを外部に不正送信され、流出させた(以下、この出来事を「本件流出」という。)。

Yは、同日午後4時33分頃、全ての取扱仮想通貨及び日本円の出金サービスの一時停止を告知し、同日午後5時23分頃、ビットコイン以外の売買サービスの一時停止を告知した(以下、これらの一時停止措置を「本件停止措置」という。)。

X1は、Yに対し、平成30年1月26日午後6時51分100リップルを、同日午後6時57分に1イーサリアムを、同日午後8時18分に100リップルを送信請求した。X4は、同日、Yに対し、44.91イーサリアムを送信請求したが、同月28日にキャンセルされた。X6は、同月27日、Yに対し、3イーサリアム、2.2959ライトコインを送信請求したが、同年3月12日にキャンセルされた。

Yは、平成30年2月13日、日本円の出金サービスを、平成30年3月12日、イーサリアム及びリップル等の送金サービスを、同年6月7日、ネムの出金サービス及び売却サービスを再開した。

本件は、Xらが、Yとの間で本件契約を締結し、Yにおいて、Xらの仮想通貨を送信及び売却する義務を負っていたのに、全ての取扱仮想通貨の送信等を停止したため、Xら全員につき送信停止中のネム以外の仮想通貨の価格下落により、それぞれ損害を被った旨主張して、Yに対し、債務不履行に基づき、損害賠償金等の支払を求める事案である。Xらの請求はいずれも棄却され、控訴も棄却された。

【判決要旨】(ネム以外の仮想通貨に関する損害について判示した部分のみ抜粋)

裁判所は、「Xらは、本件流出により各仮想通貨が値下がりするのは必定であり、損失を回避するために保有する仮想通貨を売却して損切を行うことが確実であったから、本件停止措置後送信再開するまでの各仮想通貨の値下がり額が遅延賠償として損害額となる旨主張する。しかしながら、(中略)、仮想通貨の価値は日々刻々と変動し、多種多様な要因によりその価値が影響を受ける可能性があること、平成30年1月26日時点の基準価格よりも本件停止措置後の基準価格の方が高い時点があることからすれば、一取引所である被告における本件流出により、世界的に流通している各仮想通貨が値下がりするのが必定であったとはいえず、また、Xらが損失を回避するために保有する各仮想通貨を売却して損切を行うことが確実

であったということもできないし、これを被告が予見し得たということもできない。」と判断し、Xらの主張を認めなかった。

【コメント】

本判決は、本件停止措置後送信再開するまでの各仮想通貨の値下がり額が遅延賠償として損害額となるとのXらの主張を認めなかった点で、重要であると考えます。

裁判所は、「仮想通貨の価値は日々刻々と変動し、多種多様な要因によりその価値が影響を受ける可能性があること、平成30年1月26日時点の基準価格よりも本件停止措置後の基準価格の方が高い時点があること」を理由として、Xらの主張する損害が、民法第416条第1項の「通常生ずべき損害」及び同条第2項の「特別の事情によって生じた損害」にも当たらないと判断したものであると考えます。

仮想通貨に関する訴訟では、本判決のように、仮想通貨のボラティリティの高さを前提とした判断がなされることについても、留意する必要があると考えます。

【参照条文】

民法第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

(文責:長沢一輝)

執筆者
S&W国際法律事務所

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