ベンチャー法務の部屋

投資契約書の株式買取請求権(2)

テスト素材

今回は、前回「投資契約書の株式買取請求権(1)」に引き続き、投資契約書の株式買取請求権を検討します。

前回の最後で、次回は株式買取請求権について、(2)(i)どのような条件で発動されるのか、(ii)誰が買い取る義務を負うのか、(iii)いくらで買うのか(株価)という点を検討する旨をお伝えしました。

ただ、その前に、投資契約書の実効的なペナルティーは、株式買取請求権以外にないのか、という点を少し検討します。

直ぐに思いつくのは、違約金条項です。ただ、違約金条項となると、投資契約を締結していた株主のみに会社がお金を渡すということになり、他の株主からの反発が避けられない上、株主平等原則との関係や特定株主への利益供与といった問題が払拭できません。また、会社が投資家に会社のお金を支払えば解決するという内容自体、ペナルティーとして機能するのかという根本的な問題もあります。

他のペナルティーも全く考えられないわけではありませんが、実質的な解決にならなったり、現実的ではないことが多いと思います。

では、株式買取請求権の規定について検討したいと思います。

(i)  株式買取請求権の発動要件

通常、投資契約違反、表明保証違反は株式買取請求権の発動の対象になります。投資契約において、投資のための条件(停止条件)が設定されている場合は、その条件を満たしていないことが後から判明した場合も含まれることが多いでしょう。

議論となるのは、株式を公開できるのに公開しない場合を対象にするか、さらには、投資家がファンドの場合、ファンドの満期が到来した場合を対象にするか、です。

「株式を公開できるのに公開しない場合」という要件は規定されたところで現実に発動するには困難な側面があることは否定できません。ただ、株式を公開できるのに、取締役会に公開しないという結論を出されてしまうと、投資家側としては投資した趣旨が損なわれます。有態に言えば、公開を目指すと約束したから出資したのに、話が違うではないか、ということです。この点は、公開を目指す努力義務違反という形で条文上は解消されるケースもあるでしょう。

ファンドの満期が到来した場合に発動するかという点も、議論の対象となります。ただ、多くのベンチャーキャピタルのファンドは組合(投資事業有限責任組合)であり、満期が設定されているのが通常です。満期が到来すると、ファンドの運営者(「GP」(General Partnerの略)と言われることが多い。)は、組合員(ファンドへの出資者。「LP」(Limited Partnerの略)と言われることが多い。)にその時点の資産を現金化して渡さなければなりません。しかし、ファンドの清算時に未公開株式が残っていると、誰かに買い取ってもらうより他ありません。このような事情が背景にあり、ファンドの満期が到来した場合も株式買取請求権の発動事由となっていることが少なくありません。この点、ファンドの性質からやむを得ない部分もあります。ただ、契約違反や表明保証違反と並列にするのは、会社や代表者には酷という考え方もあります。現実には、会社や代表者に落ち度がない場合は、(仮に規定上同じであったとしても)契約違反等がある場合と並列に取り扱われることは余りなく、ファンド側も無理を主張をせず話し合って解決していることがほとんどであると理解しています(私の認識ですので、違う場合もあるかもしれません。その点はご了承願います。)。

この点を以って、「これでは、代表取締役が銀行からの借り入れに連帯保証しているのと同じではないか」という批判があります((ii)に述べるように代表者が買取義務を負っている場合)。ただ、私が知る限り、現実的には、そのような取扱いは非常に少ないのではないでしょうか。会社が銀行からの融資が返済できない場合に、連帯保証人である代表者が個人破産するケースは、全然珍しくありませんが(ほぼ当然のこととして受け止められているように思われます。)、ファンドから出資を受けて、ファンドの満期までに上場できなかったという理由だけで、代表者を個人破産させるということは、私が知らないだけかもしれませんが、ほとんどないと思います。契約文言に対する批判としては理解できますが、実務は、そのような批判を十分理解した上でケース・バイ・ケースで運用されているように思います。

(ii)  株式買取義務者

株式を発行した会社が契約に違反した結果、株式買取請求権を発動することになったことを考えると、まず会社が買取義務を負うことが考えられます。ただ、会社が自ら発行した株式を買い取ることは、自己株式の取得です。となると、会社法に基づく自己株式の取得手続と取得限度額の規制が適用されます。取得限度額の規制とは、取得財源は「当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額」を超えてはならないという意味ですので、利益が出ていない会社は減資等の手続をしない限りは取得財源を産み出すことが難しいことになります(さらに言えば、そもそも会社の買取義務自体の有効性について議論がないわけではないです。)。したがって、会社以外に買取義務者を定めておく必要が生じます。

そこで、通常は、会社の主要株主でもある代表者も買取義務を負う内容になっていることが多いです。会社の経営者としては、このような形で買取義務を負うことについては一見抵抗があるかもしれませんが、規定にはそれなりに投資家側の合理的理由がある部分もありますので、それらを理解しつつ、交渉していただければと考えます。

(iii)  株式買取請求における対価

株式買取請求権を現実的な権利とするためには、いくら支払うべきかが明確になっていなければなりません。この点を「協議で定める」等としておくと、実効力に欠けることになります。

実際には、いくつかの算出方法(投資時の株価、純資産法等)を列挙して、その中で最も高い金額とすることが多いのではないかと考えます。

検討は、以上となります。諸事情により、少し曖昧な表現にさせていただいた部分もありますが、ご容赦願えれば幸いです。

執筆者
S&W国際法律事務所

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