ベンチャー法務の部屋

投資契約書の株式買取請求権(1)


今日は、ベンチャー企業がベンチャーキャピタル等の投資家から投資を受ける際に締結される投資契約書の最後の方に記載されている、株式買取請求権条項についてご説明させていただきます。

株式買取請求権とは、ある一定の条件が満たされた場合に、投資家が、「保有している株式を買い取れ」と請求できる権利を意味します。

ここで、検討すべきは、(1) なぜ投資契約書に株式買取請求権が規定されるのか、(2)(i)どのような条件で発動されるのか、(ii)誰が株式を買い取る義務を負うのか、(iii)いくらで買うのか(株価)、が問題となります。

投資契約書をご覧になった方はご存じのように、投資契約書は、投資に関する事項(発行する株式の種類や数、株価)だけではなく、表明保証条項や投資後に発行会社が順守するべき事項等が記載されています。会社や経営者は、当然、表明保証の際に嘘を述べてはなりませんし、順守すべき事項を守らなければなりません。ただ、現実には、表明保証の内容と異なる事実が判明するかもしれませんし、投資後、発行会社が順守すべき事項を守らないかもしれません。この場合、投資家は何が言えるのでしょうか。

もし、何も投資契約書に特別なペナルティー規定がない場合、考えられることは、何でしょうか。

修習生やロースクールの学生さんは、次のような問題が出題されたとして、一度ご自身で考えてみてください(どちらかといえば知識問題ですので、司法試験にはでないと思います。)。

未公開会社であるA社は、A社への投資を検討しているBさんに対し、『我が社は、反社会的勢力を交際をもったことは一度もない』と述べて、書面においてもその旨を表明し保証した。また、A社は、A社の経営に重要な施設であるP工場で事故が起きた場合、直ちにBさんに報告することを予め書面で確約した。Bさんは、これらのA社の表明保証及び確約を受けて、A社に投資することを決意し、A社の株式の割当を受け出資を履行した。

(1) 投資から1年経過後、Bさんは、A社が反社会的勢力を深くつながっている噂を聞いたため、調査したところ、A社の役員が反社会的勢力の構成員であることが判明した。また、A社の利益の一部が反社会的勢力に横流しされていることも判明した。しかも、いずれもBさんがA社の株式を引き受ける前からのことであった。Bさんが採り得る手段を述べよ。

(2) 投資後しばらくして、P工場が火災に遭い全焼した。しかし、Bさんがその報告を受けたのは、火災から1年を経過してからであった。Bさんが採り得る手段を述べよ。


(1)は表明保証違反の事実が発覚した事案です。表明保証違反が発覚した場合、通常では、民法上の錯誤無効か詐欺取消を主張することが考えられそうです。ただ、会社法第211条第2項によりこれらの主張は、「株主となった日から一年を経過した後又はその株式について権利を行使した後」には、できません。上記の設問では、この期間が経過していますので、無効や取消の主張はできません。(2)の報告義務違反は、債務不履行の問題です。債務不履行の問題は、基本的に解除か損害賠償が問題となります。しかし、解除は、新株発行を巻き戻す効力までは有しないと考えられます。また、損害賠償をするにしても、BさんはBさんが被った損害の内容及び金額を主張・立証しなければなりません。しかし、何が損害なのかは、非常に難しいです。報告をしなかったことにより、Bさんが被った損害とは、一体何でしょうか。報告の有無は、Bさんの株主としての地位には何ら変化を及ぼしませんし、報告の有無が株式の価値に変化を及ぼしたという主張も無理がありそうです。

すると、いずれの場合も実効的なペナルティーは、ないことになってしまいます。そこで、実務的にペナルティーとして、考案されたのが、株式買取請求権です。

これが投資契約書に株式買取請求権が規定される主な理由です。

次回は、株式買取請求権について、(2)(i)どのような条件で発動されるのか、(ii)誰が買い取る義務を負うのか、(iii)いくらで買うのか(株価)という点を検討します。

投資契約書は株式買取請求権以外にも重要なポイントがあります。ただ、その内容は幅広く、分量も多いため、とてもブログのみでは説明できせん。レビュー・解説等につきましては、別途ご相談いただければ幸いです

執筆者
S&W国際法律事務所

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