ベンチャー法務の部屋

大会社への移行は何が問題か

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1 はじめに

ベンチャー企業が増資を繰り返して、資本金が5億円以上となることがあります。
資本金が5億円以上となる場合に気をつけなければならないのが、「大会社」に該当することに伴い、会社法上の義務が増える点です。

今回は、この大会社に該当することの問題について、検討します。

2 大会社とは何か。

「大会社」の定義は、会社法第2条第6号に規定されています。

会社法第2条第6号
大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。

簡単に申せば、定時株主総会で承認される貸借対照表において、資本金が5億円以上となるか、負債が200億円以上となると、その承認を決議をする定時株主総会以降、大会社となり、会社法上の種々の義務を負います。

3 大会社へ移行することで生じる問題


(1) 会計監査人
公開会社でであるか否かにかかわらず、大会社は会計監査人を置かなければなりません(会社法第328条)。
会計監査人を設置するためには、まず、監査法人等と監査契約を締結する必要があります。 小さいベンチャー企業であっても、 コストは、年間で最低数百万円から必要となり、決して馬鹿になりません。
なお、会社法上の会計監査人設置の手続きは、株主総会の決議による会計監査人を設置する旨の定款変更と、会計監査人の選任です。

また、会計監査人設置会社になることに伴って、監査役の監査の範囲を会計監査に限定することはできなくなります(同法第389条第1項)。そのため、 監査役の監査の範囲を会計監査に限定している場合は、会社法上 、株主総会の決議で、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する旨の定款変更と、監査役選任の決議が必要となります(同法第336条第4項第3号)。

(2) 内部統制システム
大会社の取締役会は、いわゆる内部統制システムの整備にかかる決定をしなければなりません(会社法第362条第4項第6号、第5項)。

(3) 公告義務の加重
株式会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければなりませんが、大会社は、さらに、損益計算書も公告しなければなりません(会社法第440条第1項)。なお、いわゆる継続開示会社は、この公告義務を負いませんが(同条第4項)、その代わり、 大会社で、且つ継続開示会社は、連結計算書類を作成しなければなりません(同法第444条第3項)。

4 大会社になることを回避する方法

大会社になることを回避するためには、年度末までに資本金を5億円未満にすれば、足ります ( なお、ほとんどの未上場ベンチャー企業の負債額は200億円未満と思われますが、もし負債額が200億円以上であれば、負債額を200億円未満に減らすことも必要です。) 。

資本金を減らすためには、株主総会を開催し、資本金の額の減少を決議(会社法第447条)する必要があります。

執筆者
森 理俊
マネージング・パートナー/弁護士

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