ベンチャー法務の部屋

会社法改正(D&O保険)

令和元年12月4日に成立した会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)が、本年3月1日から施行されます。当該改正には、D&O保険に関するものが含まれており、今回は、この点について、少し説明します。

D&O保険(D&OはDirectors and Officersの略です。会社役員賠償責任保険ともいいます。)は、一般に、会社が保険契約者となり、役員等が被保険者となるもので、当該保険では、役員等がその業務として行った行為に基因して法律上負担する損害賠償金及び弁護士費用等を補償の対象とします。

D&O保険では、保険金に限度額が定められおり、また、さまざまな免責条項(役員等が法令違反を認識しながら(認識していたと判断できる合理的な理由がある場合を含みます。)行った場合等)が設けられています。

従来、D&O保険は、会社法上の制度ではなく、単に、保険契約として存在するものでしたが、上記の改正で、会社法に取り込まれることになりました。

すなわち、会社法第430条の3第1項で、D&O保険について、「保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの」と規定されました。また、同項では、株式会社が、D&O保険の「内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。」と規定されました。

また、D&O保険にかかる保険契約の締結については、同契約に関する承認決議があれば、利益相反取引(会社法第356条第1項等)には該当しないとされました(改正会社法第360条の3第2項)。

なお、D&O保険については、会社が保険料を支払うことから、当該保険料について、会社から役員等に対する経済的利益が供与されており、役員等に対する所得税の課税が生じるのではないか、という問題がありました(課税があるとすれば、所得分類は給与所得となると考えられますから、会社には源泉徴収義務・納付義務の問題が生じることになります。)。

しかしながら、この点については、経済産業省から、令和2年9月30日付けで、「令和元年改正会社法施行後における会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて」が公表されていますので、ご紹介します。これによると、国税庁は、「会社が、改正会社法の規定に基づき、当該保険料を負担した場合には、当該負担は会社法上適法な負担と考えられることから、役員個人に対する経済的利益の供与はなく、役員個人に対する給与課税を行う必要はない。」と結論付けています。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/200930doinsurance.pdf

参考:

会社法(令和3年3月1日施行の令和元年会社法改正)

(役員等のために締結される保険契約)

第433条の3

株式会社が、保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの(当該保険契約を締結することにより被保険者である役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。第三項ただし書において「役員等賠償責任保険契約」という。)の内容の決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。

2 第三百五十六条第一項及び第三百六十五条第二項(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)並びに第四百二十三条第三項の規定は、株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補することを約するものであって、取締役又は執行役を被保険者とするものの締結については、適用しない。

3 民法第百八条の規定は、前項の保険契約の締結については、適用しない。ただし、当該契約が役員等賠償責任保険契約である場合には、第一項の決議によってその内容が定められたときに限る。

(文責:藤井宣行)

執筆者
S&W国際法律事務所

お問い合わせ
メールでお問い合わせ
お電話でお問い合わせ
TEL.06-6136-7526(代表)
電話/平日 9時~17時30分
(土曜・日曜・祝日、年末年始を除く)
page top