ベンチャー法務の部屋

企業と個人との業務委託契約と、独占禁止法の適用の可能性について

先日、日本経済新聞等で「フリーランス、独禁法で保護」等として、「企業と雇用契約を結ばずに働く技術者やスポーツ選手らフリーランス人材が独占禁止法で保護される」方向で、運用指針が制定される方向で検討されている旨の報道がありました。

 

2018年2月16日
日本経済新聞「フリーランス、独禁法で保護 公取委、運用指針を公表 過剰な囲い込み防ぐ」

上記の記事では「これが労働分野に独禁法を適用するための事実上の運用指針になる。」とあるものの、この内容は有識者検討会の報告書であり、今は、公正取引委員会が「今後の業務の参考とするため,本報告書に関する御意見を広く募集することとしました。」として、パブリックコメントを募集している段階であり、現時点では、確定したガイドライン(指針)ではないことに留意が必要です。

 

平成30年2月15日 公正取引委員会 競争政策研究センター
「人材と競争政策に関する検討会」報告書について

平成30年2月15日 公正取引委員会 競争政策研究センター
『人材と競争政策に関する検討会 報告書』

 

フリーのITのエンジニアが、業務委託(請負・準委任)で契約する場合や芸能事務所とタレントの間で契約する場合等に適用される可能性があり、この有識者検討会の報告書の内容が、運用指針として運用されるようになると、実務への影響が大きいと予想されます。

 

ここでは、この報告書について、気になった点に言及したいと思います。

 

【報告書のポイント(一部)】
・ 自由競争減殺の観点からは,発注者が役務提供者に対して,発注者が自らへの役務提供に専念させる目的や,役務提供者の育成に要する費用を回収する目的のために合理的に必要な(手段の相当性が認められる)範囲で専属義務を課すことは,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
・ 競争手段の不公正さの観点からは,発注者が役務提供者に対して義務の内容について実際と異なる説明をする,又はあらかじめ十分に明らかにしないまま役務提供者が専属義務を受け入れている場合には,独占禁止法上問題となり得る。

 

【特に気になった点】

報告書34頁以下に、

 

発注者が役務提供者に対して合理的な理由なく行う以下の行為は,それにより他の発注者が商品・サービスを供給することが困難となるなどのおそれを生じさせる場合には,自由競争減殺の観点から独占禁止法上問題となり得る。
・ 役務の成果物について自らが役務を提供した者であることを明らかにしないよう義務付けること
・ 成果物を転用して他の発注者に提供することを禁止すること
・ 役務提供者の肖像等の独占的な利用を許諾させること
・ 著作権の帰属について何ら事前に取り決めていないにもかかわらず,納品後や納品直前になって著作権を無償又は著しく低い対価で譲渡するよう求めること

 

とあります。

 

したがって、これまで実務上行われてきた、個人のITエンジニアとの間で、著作者人格権の不行使特約を設けたり、タレント自らの肖像権について事務所の独占的利用を認める専属契約を締結したりする行為(肖像等の独占的許諾義務)が、独占禁止法上の問題となる可能性があります。

 

 

 

 

ところで、オリンピックとの関係で、この肖像権の独占的利用について、問題となりつつあります。一方は、知的財産権の保護(JOC側)と独占禁止(優越的地位の濫用)の綱引きの問題といえるかもしれません。

 

欧州では、以下の運用があるようです。

 

【2017年12月21日ドイツ連邦カルテル庁プレスリリース】
○ ドイツ連邦カルテル庁は,オリンピックに参加する選手が,オリンピック期間中及びその前後の一定期間,広告目的での選手自身,名前,写真や,スポーツの実演の利用を禁止することを内容とするオリンピック憲章の運用は競争を制限しており,ドイツオリンピック連盟及び国際オリンピック委員会は市場支配的地位を濫用している疑いがあるとして,両団体について調査を進めている。

 

日本でも、日本オリンピック委員会(JOC)が平昌冬季五輪の代表選手の壮行会や報告会を非公開としたとされることに対し、菅義偉官房長官が公開が望ましいとの考えを示す等、議論が起こっています。

朝日新聞「五輪壮行会、菅長官「公開が望ましい」」

日本でも、芸能事務所等の分野でも、今までの常識が変わっていくかもしれません。

執筆者
S&W国際法律事務所

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