ベンチャー法務の部屋

ベンチャーファイナンスの行方

先週末、札幌で開催されていたIVSというイベントに出席させていただきました。

多くのSessionが開催され、大変、刺激的なイベントでした。

本当は、キューエンターテインメント社の水口哲也さんと慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の稲見昌彦さんのクリエーター・トークや、関西外国語大学准教授のGarr ReynoldsさんのプレゼンテーションZENの話は、非常に面白く、勉強になるというか、それ自体が1つの素晴らしいエンターテイメントとして、成り立つ程でした。ただ、残念ながら、私には、その魅力を十分にお伝えすることはできませんので、この方々の講演に出席する機会がありましたら、参加することをお勧めします。

ちなみに、関連する本としては、今の水口哲也さんの問題意識に大きな影響を与えている「NHKスペシャル 世界ゲーム革命」と、Garr Reynoldsさんが著作された「プレゼンテーションzen」を挙げさせていただきます。

特に、後者は、講演や裁判員裁判等で、Power Point を利用しようと考えている弁護士にも、強くお勧めします。

さて、今回は、IVSの中で、取り上げられた「ベンチャーファイナンスの行方」というテーマについて、考えてみます。

スピーカーとモデレーターは、下記の方々です。
Speakers:
・磯崎哲也事務所 代表 磯崎哲也氏
・インキュベイトファンド 代表パートナー 本間真彦氏
・株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー 仮屋薗聡一氏
・DCM パートナー 伊佐山元氏
・UBS証券会社 株式本部株式調査部 エグゼクティブディレクター 武田純人氏
Moderator:
・インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー 小林雅氏

1つの大きな問題意識は、“日本には、大粒のベンチャーがない”という点です。この問題点は、”もしGoogleの創業者2名(と全く同じ能力の人間)が日本のVCの前で検索エンジンの開発をやりたいといっていたら、Googleは日本に生まれたであろうか”という表現でも、問題提起されていました。

この問題点について、スピーカーの方は、いくつかの興味ある回答を用意されていました。1つは、起業の世界には、まだまだ人・金をマネージするイメージができている人がほとんどいないということです。単にお金を流し込めばよいのではなく、人・情報・ノウハウといったものを有機的に連携していく能力のある人が、経営者側・投資家側を含めて、まだまだ少ないという問題意識ではないだろうかと思います。数多くのイケている人が起業の世界に携わるようになれば、自然といい起業家も増えるのではないかという意見もありました。

もう1つの回答には、日本では、資金提供者が早く回収を望む傾向にあるのではないかということです。シリコンバレーのVCが期待されていることは、「次のGoogleを見つけてくれ」ということであり、中途半端な成功は求めていないということです。すなわち、シリコンバレーのVCの投資家にとっては、最初から売上を気にするようなベンチャーはそれはそれであってもいいけれども、魅力的な投資先ではないということだと思います。

ここで重要な点は、VCの背後にいるLPの存在です。LPとは、Limited Partner の略で、VCの運営するファンドに投資している投資家のことです。このLPの性格によって、必然とVCの性質が決定され、引いては、投資スタンスやVCの投資先に求めることが違ってくるということです。この点では、米国の投資家の方が長期的な視点で考えているのではないかと指摘されていました。

この点は、これからVCから資金の提供を受けようとするベンチャー企業にとっても、重要な視点だと思います。

上場(IPO)との関係では、未熟なまま上場することにより、経営の自由度が下がる一方で、上場のメリットを十分に得られていないケースも少なくないのではないかという指摘もありました。この点は、先ほどの日本の投資家の早期回収傾向とも関連しますが、時価総額数十億程度で、上場してしまうと、瞬間的に株価が上がってもその後は下がる一方ということも少なくなく、経営者にとっても、既存株主にとっても、新規株主にとっても、不幸なのではないかという指摘です。私には、その数字の当否は、わかりませんが、500億くらいになってからでないと、上場しない方が良いという指摘もありました。

ところで、日本には、自動車産業を筆頭に、多くのニッチ産業においても、製造業を中心に、世界市場で、大活躍している会社は少なくありません。しかも、製造業だけではなく、ファッションの世界、ゲームの世界のような、カルチャーに多くを依存していそうな世界でも、国境を越えて大活躍している会社があります。しかし、ネットの世界では、上記のような「大粒のベンチャーがない」という嘆きをきくことが少なくありません。これは、いったいどうしたことなのでしょうか。時代のせいなのでしょうか。カルチャーのせいなのでしょうか。シリコンバレーのVCが有能なせいなのでしょうか。失われた10年のせいなのでしょうか。このあたりは、最近の私の関心事であり、いくつか仮説はあるものの、確たるものはありません。今後の課題としたいです。

執筆者
S&W国際法律事務所

お問い合わせ
メールでお問い合わせ
お電話でお問い合わせ
TEL.06-6136-7526(代表)
電話/平日 9時~17時30分
(土曜・日曜・祝日、年末年始を除く)
page top