ベンチャー法務の部屋

VCからの役員派遣とコンプライアンス

少し昔の「金融法務事情」No.1901 (2010年7月10日号)に、「取引先への役員派遣とコンプライアンス」と題する記事が掲載されていた。この記事では、主に銀行が役員や行員を派遣することが前提であるが、これは、VC(ベンチャー・キャピタル)からVB(ベンチャー・ビジネス)に役員派遣する場合にも応用できると思った。

記事には、

派遣役員は、取引先の取締役として善管注意義務を負う(会社法330条、民法644条)。そのため、取引先に関して入手した情報を銀行のためにみだりに使うことは許されない。・・・(中略)・・・取引先が派遣役員に対して情報を開示する場合は、取引先のために使ってくれることを期待しているのであって、銀行の利益のために使うことについては必ずしも承諾があるとはいえない。そこで、問題の発生を未然に防ぐため、前述のように役員の派遣における確認書などを作成しておくべきものと考えるのである。(引用終わり)

とある。

この部分は、「取引先」を「投資先」、「銀行」を「ファンド」又は「ベンチャー・キャピタル」と読み替えると、VCからの役員派遣にそのまま当てはまる。

ただ、VCの投資実務における役員派遣で、ここまで厳密に確認書が作成されているケースは、レアであるように思う。著名なキャピタリストであれば、複数の役員をかけもちしているケースも少なくないが、それらの場合、善管注意義務を厳密に考えられているだろうか。

VC側の簡単な対策としては、投資契約上、役員派遣の権利とは別に、オブザーバー派遣の権利を取得して、基本はオブザーバーで対応することが考えられる。ただ、VBサイドからの要請もあって、VC側の人間が取締役に就任するケースもある。その場合は、VCにとっても、VBにとっても、上記のような確認書で、善管注意義務や守秘義務の範囲を明確にしておいた方が安全であろう。

なお、この記事では、

派遣役員から取引先の業況が危機的であるという報告を受けて融資金を回収する行為は、公正かつ適法に行われる限り許される(中村裕明監修『必携 金融機関のコンプライアンス【業務編II】』283頁(金融財政事情研究会、2006年))。この場合には、派遣役員といえども、出身母体である銀行の損害を未然に防止する必要性が強く、そのために自己の入手した情報を銀行に開示することについては、取引先の黙示の承諾があると考えられる。(引用終わり)

とある。

この点についても、VCとVBの関係に適用できる可能性は高いと考えられる。ただ、銀行に比べ、VCは、(株式によって資金提供するため)損害防止のために採り得る手段が限定されている。したがって、仮に情報活用の点において黙示の承諾が認められたとしても、現実にその情報を活して回収しようとする場合については、投資契約書において、きっちりと手当しておかないと、回収は極めて困難になる。

執筆者
S&W国際法律事務所

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