ベンチャー法務の部屋

民法改正に伴う個人保証の保護の拡充(1)

2020.05.18

2020年4月1日から改正民法が施行されています。
この改正民法の施行に向けて契約書のレビューのご依頼を頂くことが多くありました。
今回は、改正民法における、個人保証の保護の拡充について紹介します。

改正民法においては、保証人が個人である全ての根保証契約について、極度額の定
めを設けない場合には、当該保証契約の効力が生じないとされました。(民法第465条
の2第2項)
これは、保証人となる時点では,現実にどれだけの債務が発生するのかがはっきりし
ないなど、どれだけの金額の債務を保証するのかが分からないケースにおいて、保証
人の予測可能性を確保し、保証人が予想外の責任を負うといったトラブルを防止する
ことを目的とした改正です。
民法第465条の2第1項では、同項の対象となる保証契約について、「一定の範囲に属
する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」であって、「保証人が法人でないも
の」と定められています。この点、後者については、文言から明確ですが、前者につい
てはどのような契約が該当するのでしょうか。
法務省のパンフレットによると
、「(1)子どもがアパートを賃借する際に、その賃料などを大家との間で親がまとめて
保証するケース、(2)会社の社長が、会社の取引先との間で、その会社が取引先に
対して負担する全ての債務をまとめて保証するケース、(3)親を介護施設に入居させる
際に、その入居費用や施設内での事故による賠償金などを介護施設との間で子ども
がまとめて保証するケース」という3つのケースが例として紹介されています。
これに照らすと、賃貸借契約や継続的な取引契約など非常に多くのケースが民法第
465条の2の対象となり、「極度額の定めを設けない場合には、当該保証契約の効力が
生じない」こととなるため注意が必要です。
ちなみに、国土交通省の公表している賃貸住宅標準契約書における連帯保証人の条
項は以下のように修正されています。

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「(連帯保証人)
第 17 条 連帯保証人は、借主と連帯して、本契約から生じる借主の債務を負担するも
のとする。本契約が更新された場合においても、同様とする。
2.前項の連帯保証人の負担は、頭書及び記名押印欄に記載する極度額を限度とす
る。
3.連帯保証人が負担する債務の元本は、借主又は連帯保証人が死亡したときに、確
定するものとする。
4.借主は、連帯保証人に対して、本契約に先立ち、下記の事項について正確な情報
を提供し、連帯保証人は同情報の提供を受けたことを確認する。
(1)借主の財産及び収支の状況
(2)主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況

(3)主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その
旨及びその内容
5.連帯保証人の請求があったときは、貸主は、連帯保証人に対し、遅滞なく、賃料及
び共益費等の支払状況や滞 納金の額、損害賠償の額等、借主の全ての債務の額等
に関する情報を提供しなければならない。」

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なお、極度額の定め方については、今後の事例の集積を待つ必要がありますが、保
証人の予測可能性を確保するという改正の趣旨に照らせば、出来る限り特定すること
が望ましいと考えられます。
また、極度額の相場について、国道交通省から、「極度額に関する参考資料」が公表
されていますのでご参照ください。

改正民法の施行後である2020年4月1日以降に締結される賃貸借契約において保証
の定めを設ける場合には、当然極度額の定めを置かなければ保証契約の効力は生じ
ませんが、既に締結している賃貸借契約における連帯保証の条項は改正民法施行後
も有効なのか、同契約が更新される場合にはどうなのか、といった問題は残ります。こ
れらの点については、次回以降検討したいと思います。

当事務所では、契約書のレビューをスポットでご依頼頂くことも可能です。
ご遠慮なくお問い合わせ下さい。


(文責:三村雅一)

執筆者
S&W国際法律事務所

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