ベンチャー法務の部屋

民事裁判のIT化の現在地

2019年9月17日、大阪弁護士会館で開催されたセミナー・パネルディスカッション「民事裁判のIT化・フェーズ1における手続」に、パネリストとして登壇させて頂きました。

ここで、2019年9月現在の裁判のIT化の状況を確認しておきたいと思います。

2020年2月頃から、東京地裁や大阪地裁等の特定庁の一部にて、「現行法下で可能な手続によりウェブ会議、テレビ会議の利用拡大」(フェーズ1)が始まります。具体的には、何が変わり、何が変わらないのでしょうか。

 

1 フェーズ1から可能となること(変わること)
(1) 弁論準備や書面による準備手続において、Microsoft Teamsを使って、ライブでのウェブ会議で争点整理ができるようになります。
(2) 弁論準備や書面による準備手続において、Microsoft Teamsを使って、事前に、書面や書証をアップロード出来るようになります(後述するとおり、提出扱いにはならないことに留意が必要です。)。
(3) 争点整理段階で、近場の裁判所でも(書面による準備手続におけるオンライン協議が積極的に活用され)裁判所に出頭しなくてもよくなります(もちろん出頭することはできます。また、弁論期日には出頭する必要があります。)。

また、争点整理においては、裁判所によって、ノン・コミットメント・ルールをかなり意識した上で、争点整理が進められることになると予想されます。具体的には、争点整理段階で、後日撤回する可能性を留保した暫定的発言を許容して、裁判所や相手方当事者は、そのような暫定的発言を主張として扱わないことを原則としつつ、コミットメントを確保すべき場面においては、当事者に確認した上で、協議の結果を調書化(民事訴訟法第176条第3項、民事訴訟規則第91条第2項)して訴訟上の信義則を活用することや、節目で口頭弁論又は弁論準備手続の期日を設けて陳述等を行うことが考えられています。

なお、誤解をさけるために念のために申し上げると、フェーズ1は現行法を前提に行うものですので、弁論準備手続においては、いわゆる遠隔地要件を例示している民事訴訟法第170条第3項、書面による準備手続においては同法第175条が適用されることに変わりはありません。これまでは、遠隔地要件の例示を比較的厳格に適用し、「その他相当と認めるとき」とは、遠隔地要件に準ずる場合と解釈する裁判体が多かったと思われます。しかし、フェーズ1のウェブ会議には、相当程度の臨場性と利便性があるため、電話会議の場合とは「相当と認めるとき」に該当するか否かの判断が異なり得ることを前提に、個々の裁判体が、代理人弁護士の事務所が裁判所の近くにある場合でも、「相当と認めるとき」に該当すると判断される場面が増えるであろうという予測により、上記の(3)をお伝えしております。

また、当初は、双方に訴訟代理人がついている事件からスタートするものと思われ、本人訴訟では、本人の意向のほかに、本人確認、場所の適切さの確認、秘密録音・録画の防止、弁護士ではない第三者の関与の防止などお懸念点があるため、当面の間は、IT化の対象外になるものと予想されます。

さらに、ウェブ会議を望まない代理人に、裁判所が当該代理人にウェブ会議を強制することはないとされています。

 

2 フェーズ1ではできないこと(従前と変わらない、代表的なもの)
・ オンラインでの訴えの提起
・ オンラインでの準備書面や証拠の提出(今後、フェーズ2以降を待たずして一部実現される可能性があります。)
・ オンラインによる期日の調整や進行協議
・ 訴訟記録のクラウド管理
・ オンラインでの判決入手

フェーズ1では、民事訴訟法も民事訴訟規則も変わりませんので、Microsoft Teams経由でのアップロードでは書面の提出は完了しないことになります。少なくともファクシミリにより裁判所に提出するとともに相手方にも直送する必要があることは、従前と変わりません。

なお、この点、フェーズ2をまたずして、提出用のシステムを準備し、民事訴訟規則を改正して、オンライン提出を実現する方向での動きがあるようです。これは、Microsoft Teamsでのアップロードでは、当事者から裁判所への提出に際して、相手方当事者からの変更や削除(故意過失を問わず)が防止できないということも背景事情にあるものの、一方で、アップロードとファクシミリ提出の2度の提出が迂遠であるためであると思われます(Microsoft Teamsはチーム内で共同で編集することに主眼のあるソフトウェアであり、当事者から裁判所への提出を確定的なものとするには不向きであると思われます。また、PDFでの提出であっても、改ざんや加工は可能であり、ファクシミリや直送と同程度以上の堅牢な提出方法をシステムによって実現したいというのが最高裁の方針であると思われます。)。

 

3 フェーズ1のオンライン争点整理に向けたハード面の準備
(1) 推奨スペックを満たしたPCを準備する。
(2) MicrosoftTeamsをダウンロードし、アカウントを作成する。
(3) スピーカーやマイクのテストをする。

Microsoft Teamsの使い方は、最高裁判所事務総局民事局及び日本弁護士連合会事務局から、『Microsoft Teams利用マニュアル』が作成されておりますので、弁護士の方におかれては、日弁連のHPから、これを入手して参考にしていただくのがよさそうです。

なお、現時点でのPC推奨スペックは、CPU:2GHz-、メモリ:4GB~、HDD,SSD:空き容量3GB~、Windows7 Servicepack1~とのことです。他に、モニタ(1204✕768以上の解像度)、カメラ(ノートPC付属のものでよい)、インターネット回線(光回線、有線LAN推奨)、閉鎖された空間(法律事務所の会議室など)が必要となります。

さらに、代理人は、ファイルをアップロードする際には、ファイルのプロパティや変更履歴(写真であれば、exif情報なども)に、不要な情報や不利益な情報が残っていないか、これまで以上に慎重に確認した方がよいでしょう。

 

4 最後に

民事裁判のIT化の現在地としては、以上が主な内容です。他にもいろいろと疑問等も生じてくるとは思います。ここに書き切れなかったことも少なくありませんが、お許し頂ければ幸いです。

 

今回のエントリーの内容は、時間を経て、また、フェーズ1が実施されることで、実務での運用もより合理的なものに変容すると思われます。後から、実務における変化を確認する意味でも、現時点での状況を記させていただきました。

フェーズ2は、「新法に基づく弁論・争点整理等の運用」とされており、2022年(平成34年)度頃からの開始を目標としています。その頃には、様々な知見が蓄積され、段階的により良いITツールの活用が進められているのではないかと信じています。

 

(文責:森 理俊)

執筆者
S&W国際法律事務所

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