ベンチャー法務の部屋

ワクチン休暇

新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐり、河野規制改革担当大臣は、2021年5月13日、経団連に対し、働く人が接種しやすい環境を整えるため、産業医による職場での接種や「ワクチン休暇」の導入などの検討を要請しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210513/k10013028031000.html

これを受けて、経団連は、2021年6月1日、「新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急提言」を公表し、その中で、「各企業における職域接種の実施に加え、従業員や従業員の家族がワクチン接種を受けやすいよう、休暇の取得促進等、就業環境の整備を行う。」として、ワクチン休暇について言及しています。

個別の企業においてワクチン休暇を導入したという報道や、企業による公表も、随時、されています。

https://www.calbee.co.jp/newsrelease/210527b.php

では、ワクチン休暇とは、何でしょうか。現時点で、ワクチン休暇を導入していないけど、導入を検討している企業もあると思いますので、少し、検討してみたいと思います。

まず、「ワクチン休暇」というものは、法律上明記されているものではありません。したがって、ワクチン休暇を導入しないことが、ただちに、違法(労働基準法違反等)になるというわけでは、ありません。

ワクチン休暇を導入している企業は、「従業員や従業員の家族がワクチン接種を受けやすいよう、休暇の取得促進等、就業環境の整備を行う」こと、ひいては、集団免疫の獲得等、社会公共の健康や安全を目的として、自主的に、ワクチン休暇を導入していることになります。

年次有給休暇を消化して、ワクチンを接種することを推奨する企業もあるようです(なお、年次有給休暇の消化は、基本的に従業員の自由ですので、企業がワクチン接種のために、強制的に消化させることは違法となる可能性が高いと考えます。)。

他方、年次有給休暇が減ってしまうのであれば、ワクチン接種を控えるという判断をする方もいるという前提で、ワクチン接種を推奨するために、年次有給休暇とは別に、特別休暇として、有給扱いで、ワクチン休暇を導入している企業も多いように思います(報道されるのは大企業が多いですから、中小企業を含めた場合に、日本に存在する企業数に対する割合として、「多い」か否かは定かではありません。)。

この場合、雇用契約や就業規則との整合性についても注意しましょう。就業規則等で、「会社が必要と認めたとき」等に、特別休暇を付与するといった条項があれば、これを適用することが考えられます。仮に、こういった規定がなければ、就業規則等を改定して、特別休暇に関する規定を追加することも考えられます。

また、ワクチン休暇の利用期限、回数、副反応が出た場合や同居の家族の接種に付き添う必要がある場合に特別休暇を付与するか否か、付与するとして何日までとするか等についても検討すべきでしょう。

このあたりは、上記のようなワクチン休暇の導入趣旨だけでなく、当該企業の組織構成や財務基盤等とのバランスにも配慮しながら、制度設計をする必要があるでしょう。

なお、厚生労働省が「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないようお願いいたします。」としているように、ワクチン接種は、あくまでも個人の任意の判断に基づくべきものですので、将来の紛争を予防するためにも、ワクチン休暇を導入するに際しては、この点についても留意したいところです。

執筆者
藤井 宣行
マネージング・パートナー/弁護士

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